今、世界的に宇宙ビジネスが盛り上がりを見せています。
2017年には約38兆円だった世界の宇宙市場の規模は、2030年代には約70兆円に達すると見られており、今後も飛躍的な成長が予想されています。
民間企業の宇宙産業への参入はその一つの要因です。
イーロン・マスクやジェフ・ベゾスといった世界的な起業家だけでなく、日本からも宇宙ビジネスに挑戦する多くの起業家がいます。

世界初の人工流れ星事業に挑戦する株式会社ALE代表の岡島玲奈さんにALE社の事業についてお伺いするとともに、宇宙事業や衛星事業の課題や将来、起業環境等についてお話しました。

岡島礼奈
鳥取県出身。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号(理学)を取得。卒業後、ゴールドマン・サックス証券へ入社。2009年から人工流れ星の研究をスタートさせ、2011年9月に株式会社ALEを設立。現在、代表取締役社長/ CEO。「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」を会社のMissionに掲げる。宇宙エンターテインメント事業と中層大気データ活用を通じ、科学と人類の持続的発展への貢献を目指す。

株式会社ALE:https://star-ale.com/

ALE社の事業について

倉原:はじめにALE社の事業のご紹介をお願いします。

岡島さん
ALEは「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」をミッションとしています。
まずそのミッションを達成する第1弾として、人工的に流れ星を作ろうとしています。この流れ星なんですが、皆さんすぐ思い付かれるのはエンターテインメント利用というところなんですが、実はもう一つ目的があります。

われわれは、エンターテインメントだけでなく、衛星と流れた流れ星によって大気のデータを取得するということも目的にしています。ですので、人工的に流れ星を作ることによって、エンターテインメントと大気データの取得という、二つの活動を行っています。

あともう一つ、宇宙デブリを防止する装置というのを造っています。
スペースデブリ、宇宙デブリが今問題になっていますが、打ち上げ前の人工衛星等に予め搭載することで大気圏再投入して焼却廃棄を早められる装置でして、割と宇宙産業の方々にも展開できるようなものというのができてきております。

今この3つの活動があります。

倉原:私はALEさんの事業を流れ星から知りました。プロモーションビデオが大好きでした。自分が小さかった時のことを思い出して、「ああ、やっぱり宇宙いいな」と感じました。

岡島さん
小さい頃のどんなことを思い出されたんですか。

倉原:ロケットが打ち上がるニュースを見て、ワクワクしたりとか。純粋に宇宙にドキドキする感じを思い出しました。私は好きで宇宙をずっとやってるんですが、毎日やってると仕事になってくるじゃないですか。ALEさんのプロモーションビデオを見て、最初の時のドキドキとかワクワクを思い出すのって、すごい大事だなと思いました。

岡島さん
確かにそうですね。最近ロケットの打ち上げのニュース見ても、ワクワクすることが減ったかもしれません。

倉原:知り過ぎてるわけでもないんですが、知ったことも多いので、別のことが頭に浮かんできちゃいますね。「このロケット、この衛星積んでるな」とか「この衛星打ち上げまでにいろいろこういうことあったな」とか「この人たち大変だっただろうな」みたいな。いろいろ雑念的なことも増えてきてるので、最初の純粋なモチベーションを思い出すのがすごく新鮮でした。

岡島さん
そうですね。自分の会社の衛星を打ち上げるまでって、「打ち上げってすごい楽しいイベント。ワクワク」っていうだけだったんですけど、自分の人工衛星が打ち上がると、打ち上がった後も全然安心できなくて、もう母みたいな思いが出てきたりします。この先何か純粋に「打ち上げだ」みたいに思えないかもしれませんね。

倉原:そこは宇宙を仕事にして少し残念な部分ですよね。でも、やっぱり宇宙へのワクワクやドキドキがあって、私たちはこの世界に入ってきてるので、そういうワクワクをたくさんの人に届けることができる、エンターテインメント事業は産業全体にとって大きな意味があるんじゃないかなと思います。

岡島さん
ありがとうございます。

倉原:あと、気象に関わる事業を考えられてるというところですが、Spireももう2、3年ぐらい前から、掩蔽(えんぺい)観測みたいな電波を使って気象、大気の情報をとっていたりとか。最近本当に気象に関して、経済とのつながりが深くなってるかなという気がします。大雨とかで経済的な被害が増えていると。また、日本にいると普通に気象の情報が手に入りますが、他の国に行くとこんなに精度の高い気象情報がある国のほうが珍しいということも知りました。気象っていうのはこれから注目、盛り上がるんじゃないかなと思います。

岡島さん
そうですね。気象データって国によって差があるというのはもちろんなんですが、実は日本もあまり精度向上の進みは良くないんですよ。衛星データ全般やそのモデル解析でもっと精度を高めることができる可能性があるようです。

気象予測っていいデータ、プラス、いいモデルとその解析およびそのアウトプットみたいなのが要るじゃないですか。それらに対して今後は新しい民間からの貢献が期待されていますが、従来の官との連携はまだ十分でなく今は構築しているような状況です。

異常気象、最近特にすごいですし、この異常気象による経済へのダメージ、日本もトップクラスで受けてるんですよね。これから異常気象は増えていく恐れが高いので、そこの予測精度をどのようにして上げていけるか、われわれはそれにどう貢献できるかということを問題意識として持っています。

倉原:なるほど。
大気の情報って高度が上がっていくと、例えば雲とかがある高さの情報って本当に少ないってというのを聞いたことがあります。それがもっと増えていけば、より精度を上げられるかもしれませんね。あとは、それぞれの組織が持つリソースを有効に活用するために、連携というのが必要になってくるんですね。

岡島さん
そうですね。

倉原:エンターテインメントと気象のほうは使われてる基本的な技術が一緒ということですか。

岡島さん
そうです。ただ、厳密に言うと、流れ星を観測したデータだけだと十分なデータにはならないんですよね。全く意味がないわけではないけれども。流れ星を観測するデータだけでは点が通る線の解析になってしまい全天の観測は難しいので、今広い領域をカバーできる方法も考えてます。その場合、新たな技術はプラスアルファで加わりますが、衛星を造るという意味では基本は同じ技術ですね。

衛星運用のためのアンテナの重要性について

倉原:流れ星の事業について、以前お話を聞いた時「運用のタイミングがすごくクリティカルで」とおっしゃってましたね。

岡島さん
そうなんです。われわれは流したい所にお客さんに流れ星を届けたいんですよね。まだ今どうやって運用するかというのは決めてないんですが、多分何カ月も前からコマンドを打っておき、中止できるのが、念には念を入れるとすると、多分3周前ぐらいなんですよね。われわれの人工衛星って極軌道の低軌道を想定してるんですけど、今だと北極圏のアンテナを使っているので90分に1回だけの通信になってしまいます。それってすごい少ないじゃないですか。

なので、われわれはインフォステラさんのネットワークで、アンテナが世界各国にあるという状況が非常に理想的です。そうすると、例えば、3周前、5時間ぐらい前にやめるかやめないかというコマンドを送らなきゃいけないというのが、もしかすると最悪30分前とか、本当にぎりぎりのところ、物理的限界で言うと15分前とか、そういったところで中止できたりとか。

あとはもう「今日本当にすごい盛り上がったから、みんなで今から流れ星注文したい!」みたいな。そういう時も、インフォステラさんのサービスがあれば、「あと1時間後に流れ星流して」みたいなことが可能になるかもしれないじゃないですか。衛星と通信する自由度が上がることはサービスの自由度を上げることにつながるので、インフォステラさんのアンテナのサービスというのは、早くできないかなって、早く全世界にできないかなって思ってます。

倉原:ありがとうございます。非常にありがたいコメントです。
うちもぜひ使っていただけるレベルまで早く地上局を増やしたいなと思っています。こういったタイムクリティカルな運用ができるようになると、いろいろサービスの選択肢やサービスの幅が広がるとも思ってるので、貢献できるように頑張ります。

岡島さん
多分、うちの衛星が一番そういうのを欲してる気がしますね。

倉原:場所と時間というのを両方要求されるケースが意図的にあるというのは珍しいケースだと思います。例えば、災害のときとかも似たような要求はありますが。例えば、災害が起こりましたと。今すぐできるだけ早くこの災害が起こった場所の情報が欲しいとかってあるんですけど、それって不定期に発生するもので、いつも起こるわけではないですよね。ですので、ALEさんの事業は本当に珍しいと思います。

岡島さん
インフォステラさんのサービスがメジャーになっていって、「衛星って、いつでも、どこからでも通信できるんだよ」という世界になったら、また新しいことを考え付く人が増えそうですよね。「だったら、これできるよね」みたいな。

倉原:そうなんです。そういう世界になったら、例えばALEさんの技術に軍事系セキュリティ系の人たちの興味がすごい集まりそうな気がするんですが、いかがですか。

岡島さん
それがですね、われわれは軍事参入はしないと会社として決めているのと、良くも悪くも軍事利用は難しいんですね。

エンターテインメントとしては、十分な精度なのですが、武器になるには精度が低いんですよ。われわれって、流したい所にピンポイントで流れ星を流せるというのは本当はちょっと語弊があって、ちょっと幅があるんですね。「大体この視野に入るよ」という、そういうぐらいのサービスの精度なんです。なので、軍事系に求められるような何かピンポイントでここにぶつけてみたいなのはできないんですよね。

軍事利用とかはちょっと違うけど、例えば国家的なイベントで、国王が手を挙げて、ワアッてやったら流れ星を流すとか、そういう演出はできるかもしれません。

(続)

後編では、宇宙事業や衛星開発における課題や、宇宙事業を取り巻く環境についてお伺いします。