世界初の人工流れ星事業に挑戦する株式会社ALE代表の岡島玲奈さんとの対談。
前編では、ALE社の事業のご紹介と衛星運用におけるアンテナの重要性についてお話をお伺いしました。
後編となる本稿では、宇宙事業や衛星開発における課題や、宇宙事業を取り巻く環境についてお話しいただきました。
岡島礼奈
鳥取県出身。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号(理学)を取得。卒業後、ゴールドマン・サックス証券へ入社。2009年から人工流れ星の研究をスタートさせ、2011年9月に株式会社ALEを設立。現在、代表取締役社長/ CEO。「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」を会社のMissionに掲げる。宇宙エンターテインメント事業と中層大気データ活用を通じ、科学と人類の持続的発展への貢献を目指す。
株式会社ALE:https://star-ale.com/
宇宙事業や衛星開発の課題について
倉原:御社のようなサービス、時間と場所をある程度狙わないといけないといったときに、衛星の開発とかで何か問題になったりとか、ここは難しかったみたいなところがあれば教えてください。
岡島さん
やっぱり姿勢制御と流れ星の粒の放出精度ですね。今お伝えしたように、ピンポイントでその場所への放出というのは難しいながらも、視野角に入るというのも結構大変です。流れ星の放出装置がちゃんと真っすぐ決められた場所に放出されて、そのぶれが何%以内に収まるとか。その初速度が何%以内に収まるとか。
やはりちゃんと同じ場所に届けられるようにという意味でいろいろな計算のぶれがないようにする必要があって、それが一番大変でしたね。残念ながら、まだ流れてないんですが。
1回動作不良になって、次が3年後というのが本当に長いなと思いますね。
倉原:分かります。チャンスがなかなかやってこないというか、3ヶ月後とかの単位でチャンスがどんどんやってるわけじゃないのがきついですよね。
岡島さん
物つくってるって、そういうことなんですよね。特に宇宙は。
倉原:そうですね。うちも衛星の実機との通信をできるタイミング、新しい衛星を獲得するタイミングが難しくて、既に打ち上がってる衛星だともう大体運用のシステムってもう固まっていることが多いので、新しく衛星が打ち上がるタイミングでうちも使い始めてもらうということが結果的に多くなるんですが、やっぱり衛星の打ち上げがドキドキします。衛星の打ち上げの際は、とにかく成功してくれと祈ってますね。
今お話のあった、動作不良の件、2020年4月に2号機の動作不良のアナウンスがあったのですが、その辺りのことをもう少しお伺いできますか。
岡島さん
まず1号機はまだ流れ星を放出できてないんですよね、物理的に、動作確認もできない状況です。2019年の1月にイプシロンで打ち上がって、地上500キロの所にいて、今下りてきているところなんですが、宇宙ステーション(地上400キロ)より下で放出実験をする取り決めになっているので、そもそも放出実験がまだできない状況なんですね。
ということで、2号機なんですが、2019年12月に打ち上がって、いろいろ通信を確認して「順調だね、全部すくすく元気だね」という感じだったんですけど、「じゃあ流れ星の粒を放出しようか」という、テスト放出のタイミングになって、「あれ?上手く動作しないぞ」となったんですよね。
何回かやってみて、流れ星の粒が装填されてないようだというのが分かりました。それで毎日エンジニアチームが大きな部屋に集まって「ああでもない、こうでもない。これも試してみよう、あれも試してみよう」みたいな、全部こう書き出してやっていってということをやりつつ、「ああ、これ、ここが動いてないね」みたいなのが結構分かってきたんですよね。
最終的に流れ星の装填する部分が動作不良だった場所ということが分かって、4月に発表したという感じです。
倉原:やっぱり難しいですよね、衛星は。東大の時の衛星でも打ち上げた後にトラブルがあって、思ったのですが、宇宙の難しさって宇宙環境とか真空とかそういうのも確かにあるんですが、そもそも距離。手元に物がなくて、何かが起こったときに推測の想像をしながらデバッグしていくということは本当に難しいなと感じました。どう動くか、どう動かすかを考えながら物を造るんですが、失敗したときにどうデバッグするかを考えながら物を最初から造らないといけないんだというのが、職人芸のようだと本当に思いましたね。だから、宇宙業界では、できる限り失敗を避ける方向で動くんですけど、一方で失敗した人とか失敗したプロジェクトを経験した人とか会社とかというのが、より信頼されるようになっていくっていう傾向もあると思います。
岡島さん
そうそう。貴重な経験が蓄積されるというところではありますよね。
倉原:何らかの拍子にというか、動くといいですね。定期的に何か試したりしてるんですか。
岡島さん
いえ、特には。次号機開発にも活かせるので色んなデータを取得しつつ、ちょこちょこ様子を見てるんですけど。
倉原:そういうテレメトリデータとかって公開されたりすると、すごく興味を持つ大学とか研究関係者の方がいるんじゃないですか。私が所属していた九工大の趙先生の研究室でみどりⅡ号の故障解析をやってたんですね。衛星が打ち上げから1年ぐらいで完全に運用停止するという事故が起こって。研究室で1年とか2年単位の太陽電池の発電のレベルをプロットしてみたら、だんだん発電電力が下がってきてたんですよね。「あれ?これ兆候があったんだ、実は」っていうのが長期データを見た時に分かって、そこから他のいろんな実験も含めて、「こういうことが起こって故障したんですね」という解析をJAXAさんと一緒にやったことがあります。なので、衛星のテレメトリデータというのは、すごいいろいろ調べてみると面白いことが出てくるのかもしれません。
岡島さん
なるほど。確かにテレメトリデータをオープンにして、みんなで見てもらうとか面白いかもしれないですね。集合知みたいなのがあるかもしれない。
宇宙系スタートアップの起業環境と規制について
倉原:話題は変わりますが、起業当時と今とで宇宙系のスタートアップとか事業に関する環境とか支援の体制とかで何か変わったなって思うことはありますか。
岡島さん
起業当時って、もう「宇宙ビジネス?ビジネスになんないでしょう」みたいな感じ。「うちは宇宙扱いません」みたいな感じのベンチャーキャピタルとかもすごい多かったのが、最近宇宙系のファンドも増えてきたし、宇宙の案件でも「ちょっと話聞いてみたいです」って言ってくれる人は増えましたよね。
倉原:それは確かにありますね。宇宙関係に投資してくれる所、話を聞いてくれる所が今ほど多くはなかったような気がしますね。
岡島さん
あとは国のサポートは手厚いなとは思いますけどね。国の熱い人々の応援を感じますよね。気持ち的な。
倉原:そうですね、気持ち的な。内閣府の宇宙戦略室とか経産省の宇宙産業室が、いろいろ問い合わせるとちゃんと対応してくれて、何とか応援しようとしてくれてるんだなと感じますね。
あと、法律的なところや規制関係のところのサポートってどうですか。
岡島さん
そうですね。宇宙活動法が制定されて、割とわれわれとしては、いいなと思っています。法規制ができるというと多分他の業界だと動きにくくなるんじゃないかって思われる方々が多いけれども、宇宙に関して言うと、何もないところで「こうやったらいいですよ」っていう手引書が渡されたイメージですね。
倉原:そうですね。確かに規制があることで、「該当するんだったら、これをしなさい」というのはクリアですよね。意味も分からず駄目だと言われるほうが何ともし難いですね。
岡島さん
他の業界の人の話を聞いてると、インターネットや技術革新によって変化が起きている既存業界において、変化に合わせるための規制整備や対応が一番大変そうですね。宇宙業界は、ないものからつくってるので、今のところあんまり変なことを感じないですが。10年後、20年後とか「この法律。今に合ってないな。」みたいになってるかもしれないですね。
倉原:そうですね。先ほどちらっと言われていた流れ星を打つのが400キロより下、宇宙ステーションより下にして欲しいというのは、規制からですか。
岡島さん
規制は関係ないですね。流れ星を流すのを規制する法案って全くないんですよね。
ただ、内閣府とか宇宙活動法の許認可を受けるみたいなのはあるじゃないですか。その中で各方面の人々として、「流れ星、400キロ以下だったら流していいよ」というような合意をしていて、誰が決定したとかそういうのはないんですよ。みんなの意見を総論すると、「宇宙ステーションより下でやるんだったらぶつからなさそうだし、許可できるね」みたいな話にまとまり、合意に至りましたね。
倉原:場所を問わず、400キロより下なんですか。
岡島さん
そう、場所を問わずです。軌道計算して、絶対当たらないと言える軌道でやればいいんじゃないかとも思うのですが。一方、前例を作っちゃうと、「みんなが、400キロより上でポンポンやったら、やっぱ何かしらの時にぶつかるんじゃないか」という懸念にはなるんだろうなと思いますね。
倉原:最後に、今後の抱負を教えてください。
岡島さん
宇宙企業、宇宙スタートアップはすごい増えてきてますよね。そんな中で、日本っていうくくりで考えると、宇宙領域は日本が世界で勝てる目が残ってると思うんですよね。
ここで我々はつぶれるわけにはいかないです。
我々はもちろんちゃんと会社を存続させて頑張ってそういう世界観をつくっていくというのはあるし、自分たちの会社だけではなくて、宇宙産業全体として盛り上がりをつくれるようになりたいなと思っています。
いいニュースもあるじゃないですか、大型の資金調達してる宇宙ベンチャーが出てきたりとかして。そういう人たちがIPOとかしてくれると、どんどん我々にとってもいい状況になってくるんだろうなと思っています。
みんなで本当早く、宇宙産業を日本のちゃんと勝てる産業としていきたいなと考えています。
倉原:宇宙産業で日本を盛り上げていきましょう!
岡島さん、お時間をいただき、ありがとうございました!
(終わり)