「宇宙寺院」プロジェクトを進めるテラスペース株式会社代表取締役北川 貞大さんとの対談。
前編では、プロジェクト立ち上げの背景についてお話をお伺いしました。

前編はこちら

後編となる本項では、プロジェクトを立ち上げる上での困難、そこから見えてくる日本のビジネス課題、このプロジェクトにかける北川さんの想いについてお話をお伺いしました。


北川 貞大(キタガワ サダヒロ)

(生年月日)1968年4月19日
(最終学歴)京都大学経営管理大学院
(職歴)
1996年4月 カゴヤ ・ジャパン株式会社 取締役就任
2000年9月 同 代表取締役就任
2020年2月 テラスペース株式会社 代表取締役就任

テラスペース株式会社 https://www.terraspace.jp/
劫薀寺(宇宙寺院プロジェクト) https://www.gounji.space/


プロジェクトを進める上での困難について

倉原:プロジェクト開始までに大きなハードルはありましたか。

北川さん
醍醐寺さんとの関係の中では、そういうことはなかったですが、お寺を打ち上げるということに対する宗教的アレルギーっていうのが、やっぱり社会にはありました。人工衛星をつくるということ自体が目的なわけではなくて、宇宙に寺院をつくるというのが目的だったので、始め、衛星の開発は、他社に発注するつもりでした。しかし、何社かにお声掛けはしたんですけれど、宗教関係はNGというところが多かったです。

倉原:よく分からないけれど、何か問題になるかもしれないから、お断りしますみたいな感じでしょうか。

北川さん
そうですね。こういった衛星開発される会社だけではなくて、例えば、クラウドファンディングも宗教活動には使えませんというところがほとんどです。例えば、お寺がやるにしても、文化財の修復には使えるけれど、仏像の修復というと、使えなかったりします。

倉原:カジュアルにお寺に観光、旅行として行ったりする側面がある一方、ビジネスっていうところではハードルがあるんですね。

北川さん
宗教アレルギーというものが日本には根強く残ってるというところが、これまでのハードルでもあったし、これからもハードルなのかなと思ってるんです。それで仕方なくということもありましたが、このままでは日本のビジネス自体が正常化しないとも思いましたので、自分たちで宗教でもウェルカムな人工衛星の開発会社をやったらいいじゃないかと考えました。宇宙の宮大工のような存在になったらいいよねと。それで今、自社開発のほうを進めています。

倉原:そういう経緯だったんですね。衛星をつくりたくて、どう衛星を使うかを後から考えているケースの会社はよくあると思いますが、これがしたくて、それに必要だから衛星もつくりますっていう会社は、すごく珍しくて、新鮮です。逆にそういう会社が今後増えていくべきかなとも思います。

北川さん
そうですね。用途ありきで進めていくプロジェクトも、本来のあるべき姿だと思います。

倉原:宇宙寺院のビジネスモデル、課金モデルについて教えていただけますか。

北川さん
今は提携させていただいてるのが醍醐寺さんだけなんですけれど、今後そういった提携寺院を増やしていこうということになっています。そういったお寺でも宇宙の人工衛星を使った法要ですとか、衛星を使った祈願などをやっていってもらえるようにしていこうと考えています。そういった宇宙寺院を自分のお寺の別院として使いたいというお寺さんから、使用料をご協力いただくというようなビジネスを考えています。

倉原:宮大工っておっしゃってましたが、どこかのお寺さんの新しいお寺を建てるっていうところで、建てる費用ではなくて、月々サービスとしてという形で、お寺さんからいただくというような感じですね。こっちの宗派とやってると、こっちとはやりにくいみたいなところとかあったりするんですか。

北川さん
そこは真言宗のいいところでして、他宗派に対しては、かなり寛容な宗教です。それで、今も宗派関係なしに使っていただけるようお話を進めています。今のところ、醍醐寺さんのほうと親密なところですとか、私が以前から知っていたお寺とか、そういうところを中心に数社、お話を進めているところです。

倉原:規制、例えば、免許、国への申請、この辺りで何か難しいことってありましたか。

北川さん
今、申請もまだ全部やってるわけじゃないんですが、特に電波の関係ですね。地上局との通信の調整しているところです。普通にやってるだけなので、ここではお寺だから難しいということはないですが、大変です。

倉原:宗教に対する抵抗感みたいなところは、国のほうではなかったですか。

北川さん
宗教に厳しい機関は多かったですね。最初は、この衛星もISSからの放出とかJAXAのロケットを使ってというのも視野に入れてたんですけれど、どちらも宗教というところで難しいという見解を頂いていました。特にISSのほうは、いろんな国が共同で打ち上げてますので、どこかの国の宗教的な事業を認めるわけにいかないということで、ISSの運用ルールとして、宗教に関する活動はしませんというふうにルールを設けているようです。それと、日本以外でも国によっては、宗教関係の衛星は打ち上げられないというところはあります。例えば、ロシアとインドは駄目なんですが、アメリカと中国はいいんです。今後、日本でも民間の打ち上げサービスが始まったら、こちらはOKになる可能性もあります。

倉原:宗教に関わるということもあり、色々な問題が絡み合っていて難しいですね。何とも言えないのですが、いい方向で広めようとする活動を制限されるのは、少し考えさせられますね。

北川さん
まさに日本のビジネスの弱点がそこにあると思っているんです。
何かイノベーションが起こるとしても、日本の場合は、それがどんなに人のためになることであったとしても、法律とルールに反するものは駄目なんです。
これがアメリカの場合には事情が異なります。UberにしてもGoogleにしても、当時のアメリカの法律では違法だった。Uberはタクシーのライセンスを完全に無視した白タクのサービスですし、Googleの全文検索っていうのも、他人の著作権を侵害するサービスです。Googleと似たサービスが日本でもできようとしたことがあるんですが、それは法律に引っ掛かり、コンプライアンス上NGなので、やめましょうということになりました。
でも、アメリカには、違法であっても、人のためになるんであれば、それはやってもいいんじゃないかという、Fair useの考え方というのが根付いてるわけなんです。それに基づいてGoogleやUber、Amazonといったサービスが認められているのです。日本でもAmazonのようにオンラインで本を売ろうとしてたところもあれば、売っていたところもあるんですが、既存の書籍の流通ルールを壊してしまうようなサービスはできなくなるんです。今でも、例えばAmazonのkindleで電子書籍というのが売られてますが、、アメリカでは安いんです。出版のコスト、印刷や輸送のコストがかかりませんから安くなったって当たり前ですよね。でも、日本の場合はほぼ同じです。
そういう差が生まれる前提として、法律とか既存のルールを越えたところでの判断をしようという、社会的なコンセンサスがアメリカにはあるかと思うんですけれど、日本では、法律以上のことは誰も考えることもできない。もちろんむやみに法律に違反することはできないんですけれど、自分がやろうとしていることが、法律を無視してでもやる価値があることなのかどうかということを、起業家だけが考えるだけでは駄目で、それを取り巻く社会全体がサポートしてくれないと実現できないんです。
ですから、日本ではGoogleが生まれないとか、スティーブ・ジョブスが生まれないとか、Amazonが生まれないとかいいますけど、これは日本で天才が生まれないというのではなくて、そういう社会構造自体が違うことが原因だと思います。そういう社会の中で法律よりも優先しなければならないことということを教えてくれる、その1つが僕は宗教だと思っています。

倉原:法律の話で、あることを法律と照らし合わせてなぜ駄目なのか、実は法律のほうが現状とは合ってないのではないか、もしそうだったら変えなきゃねみたいな議論、日本ではなかなか進んでいかない印象があります。これは日本人の性質的なものでしょうか。

北川さん
それはあると思います。日本の場合は、法治主義を越えて、法律絶対主義になっちゃってる。今のコンプライアンスもそうですよね。それは、アメリカやグローバル経済に合わせた結果だと思います。一方で、それをつくってるアメリカは、それを越えた考え方を持ってるのに、日本には、それがなくルールだけになってしまっている。そうすると、ルール絶対主義にならざるを得ないということです。

倉原:根本的な理念ではなく、ルールそのものが一番大事なものになっちゃうというのは、掛け違ってるように感じます。

北川さん
そうですね。それはそもそも日本人にとっての宗教観が、儀式だけになってるというのが原因じゃないかと。中身が失われてしまってるから、法律以前の自分の考え方や社会の価値観というのが失われてしまっているのではないかと思うわけです。

プロジェクト効果と宇宙開発に必要なものについて

倉原:改めて宇宙の衛星や衛星技術を、宗教と、例えば宇宙寺院のような形で、掛け合わせることで何か新しいことが生まれそうな気がしました。「宇宙寺院」プロジェクトにどういった効果を期待されていますか。

北川さん
もう既に出ているものですが、人々に面白がってもらえるというのが最大の効果じゃないかと思ってます。

倉原:面白いって重要ですよね。楽しい、面白いっていう感情。

北川さん
これからの宇宙開発に必要なものは、それなんじゃないかと思うんですよ。昔のアポロの時代というのは冷戦でしたので、国威掲揚というのがあったんですけれど、今はそれで動いてるわけじゃないですよね。今はみんなが火星に行ったり月に行ったりするのは、それをみんな面白がってるからです。面白いから行くんだという、その動機を正当化しないと、なかなか宇宙開発っていうのはできません。お金がかかりますので。

倉原:そうなんですよね。楽しい宇宙開発がいいですね。我々もそこを大事にしたいと思います。

北川さん
地上局が手軽に使えるのは、ものすごくありがたいことですね。今、地上局をつくっても、結局衛星が日本に来たときにしか通信できませんから。それと、電波使用料ってものすごい高いじゃないですか。これが御社のように世界各地の地上局が使えて、電波使用料の安い国で電波使用の申請をすれば、電波使用料をかなり節約できるんじゃないかなと思っています。ですから、技術的なところでのシェアリングだけではなくて、電波使用料の安い国をあっせんするとか、その辺りの調整の手伝いをしていただけるようになったら、なんかものすごく便利なサービスになるんじゃないかなとと思ってます。

倉原:その辺は別途相談させてください。御社のビジネスですが、仏教の大元のインドとか、海外寺院を巻き込まれるのも面白いんじゃないかなと思いました。

北川さん
実は海外の反響結構あるんです。テレビのニュースに結構流れたんですけれど、NHKワールドで世界中に放送されてますよね。それで欧米の方とかアジアの方からも反響があって。特に台湾、香港、タイ、こういうところの方からの祈願の申し込みとか、法要の参加申し込みが結構あるんです。

倉原:世界中で、この宇宙寺院を面白い、楽しいって思うムーブメントになるといいですね。北川さんのお話を伺っていると、何かをするために、宇宙や衛星を使おうとされているように感じます。宇宙を使ってこういうことをしたいから、衛星が、ロケットが役立つという方が今後増えていくと宇宙産業が広がるなと思いました。

北川さん
そうですね。実際にそうでないと、利益を生み出すビジネスにならないんですよね。手段ありきでやってしまうと、どうしても失敗してしまう。

倉原:そうですね。これまでは国家のために宇宙の開発が進められていましたが今後変わっていくと思います。

北川さん
今、安い人工衛星をつくって誰にでも宇宙を使えるようにしようという、そういうポリシーで、テラスペースのほうは人工衛星をつくっております。そういう意味では、ものすごく御社とベクトルが合ってるんじゃないかと思いますので、今後も一緒に活動できたら考えています。

倉原:ぜひ、ぜひよろしくお願いします。北川さん、本日はありがとうございました。

(終)